パネル討論:CFSに結びつく実質的な証拠/免疫系

CFIDS assosiation of America

Mail Magazine ME/CFS Information, No.44, 2002.9.5.

サイト:http://www.cfids.org/archives/2002rr/2002-rr1-article03.asp
原題:Panel: "Substantial" Evidence Links CFS, Immune System
著者:CFIDS assosiation of America



昨年秋に開催されたCFSシンポジウムにおけるパネルレポートによると、免疫系の障害が慢性疲労症候群(CFS)の一因であることを明確に示す研究成果が発表されました。

CFSに関する第3回目に当たるこのシンポジウムは、アメリカCFIDS協会、CDC、NIH女性健康研究部(ORWH)の協賛により行われました。この一連のシンポジウムは、CFSにおける神経系、内分泌系、循環器系、免疫系の役割に関する検討を目的としています。

パネルは10名の医師や研究者(下記参照)によるCFSに関する研究成果発表を受け、次の5項目に関する公式見解を示しました。


○CFSにおける免疫系の調整異常を示す証拠があるか。
○CFSの症状群の原因となりうる免疫障害の例やモデルがあるか。
○CFSにおける病原体の介在を示す証拠があるか。
○現在までの免疫系、HPA系、自律神経系間の相互作用に関する、CFSの臨床症状のデータから何が明らかになるか。
○今後どのような研究が必要とされるか。どのような共同研究の可能性があるか。それらの詳細な研究を進める上での障害があるか。


パネルは、研究成果の最終報告書を作成しました。この最終報告書は、医学文献に発表される予定になっているため、ここで全文を紹介することはできませんが、下記にシンポジウム終了後のパネルメンバーによる合意事項を示します。


○CFSと免疫系には関連性があります。NK細胞の活性化、T細胞の増加や活性化、リンパ球による刺激の低下、細胞間の化学的伝達物質である炎症性サイトカインの異常産生など、免疫学的異常が多くのCFS患者に見られることを示す多数の論文が発表されています。
パネルは、これらの異常がCFS発症に影響を及ぼす正確な役割を理解する目的でこれまでに行われた研究には、限界があることを指摘しました。

○種々の感染症も影響を及ぼしていると考えられます。全ての患者に同一のウイルスは見られていませんが、いくつかのCFS発症例とウィルス活性や細菌感染の関係があることを示す直接的または間接的な証拠があるとパネルは結論づけました。例えば、最大で30%のCFS患者に、エプスタインバーウィルスやヒトヘルペス6型ウィルスの持続的活性化が見られることが報告されています。

○CFSは多系統疾患です。免疫系に加え、内分泌系や自律神経も関与していると考えられます。CFSと視床下部‐下垂体‐副腎系の活動低下との関連性を示す報告があり、それにより免疫系の上方調節と血中サイトカインの増加を説明できます。

○CFSの免疫学的側面を明らかにするためには、さらに多くの研究が必要です。パネルでは、長期的研究・共同研究を含む、これからの研究課題のアウトラインが示されました。それは、CFSにみられる免疫学的プロファイルを持つ病原体が介在する可能性を検討すること、症状や機能障害に関する免疫学的知見とを関連づけること、CFS治療における抗炎症性サイトカイン、抗ウイルス剤、抗生物質および免疫偏調剤の使用を検討することです。

また、パネリストは、多くの方に普通にみられる潜伏感染と、より頻繁に活性化しCFSの症状を伴った感染とを区別する標準的な方法の確立など、研究上の障害を乗り越える方法を提案しました。


パネルメンバーは、このシンポジウムと、そこで得られた成果に満足していると語っています。「シンポジウムでは重要な問題に焦点が当てられ、良く組織・構成されていました。わたしが考える限り、このシンポジウムの成果は明らかです。そして、得られた成果を慢性疲労症候群の病理を解明するために、さらに役立てて行かなければなりません」とテキサス大学(ヒューストン)健康科学センターのGerhard Krueger医学博士は語っています。



●シンポジウム発表のハイライト

症状や免疫機能の変動を捉えるための長期的研究の不足など、多数の問題がCFSの免疫学的研究を妨げています。また、神経内分泌系や自律神経系の異常が免疫異常の背景にある可能性を調査することが必要です。現在、研究において、多様な発症タイプや病気の持続期間、合併症状を持つ患者を区別せずに、サブグループ間にわたる結論を出そうと試みるような不適切な手法が用いられています。

潜在している混乱や問題点の検討が行われ、最近のCFSシンポジウムにおいて、これまでの知見を明確にし、新しいCFS研究の方向性示す、重要な知見が報告されました。以下にその3つの講演の要約を示します。

○オーストラリアのニューサウスウェールズ大学のAndrew Lloyd医師によると、エプスタインバーウィルス(EBV)、Q熱、またはロスリバーウイルスに感染後、6ヶ月以上症状が長引くのは珍しいとされています。同医師の研究グループでは、感染後慢性疲労症候群のモデルとして、これらのウィルスに感染した患者を対象に研究を行っています。得られたデータから、「ウィルス感染後、長期間経った後の症状の発現は実際に多くみられますが、その後の持続期間は短く、最長でも3〜6週間と考えられる」ことが示されました。6ヶ月間症状が続く方は約10%、12ヶ月続く方は約5%、24ヶ月間続く方は約1−2%でした。これらの研究により、Lloyd医師は、将来的に回復が早い場合と遅い場合の両者を予測することが可能になると期待しています。

○オハイオ州立大学のRon Glaser医師は、「EBVなどのヘルペスウイルスが部分的に再活性化されると、免疫やサイトカインの調整障害を誘発し、CFS患者の一部においてCFS症状群の原因となる」という自らの仮説を論じました。宇宙飛行士、医学生、アルツハイマー病患者の配偶者/介護者のストレスに関する調査の免疫学的データから、「ストレスの多い状況に置かれることにより、潜伏しているEBVが部分的に再活性化されることがある」と示されています。ウイルスの再活性化が不十分な場合、標準PCR法を用いても特定のウイルスとCFSとの関連性を示すことは困難になるかもしれません。Glaser医師のグループでは、特定の状況下において、潜伏EBV感染とCFSや他の疾患との関連を明らかにするため、数種類のEBV酵素に関する研究を行っています。

○インターフェロン・アルファは、CFS様症状を誘発する可能性があることが知られています。エモリー大学のAndrew Miller医師らは、悪性の黒色腫の治療のためインターフェロン・アルファの投与を受けている患者に対して、抗鬱剤を前もって処方することで、うつ病、不安感、頭痛、筋肉痛、認知変化などの症状が防止できるものの、疲労や拒食タイプの症状には効果が無いことを示しました。このことから、疲労や拒食症状は、気質的症状よりも上位にあり、治療はより困難であると考えられます。CFSにおいても、抗鬱剤に対して同様の反応が生じることから、インターフェロン・アルファの投与に基いたCFSのモデル構築に関するMiller医師の研究の正当性を、さらに確実にするものといえます。



●免疫学シンポジウム参加者

○パネル
Timothy Gerrity, PhD
(co-chair)
Georgetown University Medical Center
Washington, D.C.

Dimitris A. Papanicolaou, MD
(co-chair)
Emory University
Atlanta, Ga.

Jay D. Amsterdam, MD
University of Pennsylvania
Philadelphia, Pa.

Stephen Bingham, PhD
VA Maryland Health Care System
Perry Point, Md.

Ashley Grossman, MD
St. Bartholomew's Hospital
London, U.K.

Terry Hedrick, PhD
CFS patient, research methodologist
Cobb Island, Md.

Ronald B. Herberman, MD
University of Pittsburgh
Pittsburgh, Pa.

Gerhard Krueger, MD, PhD
University of Texas
Houston, Texas

Susan Levine, MD
Private Practice
New York, N.Y.

Nahid Mohagheghpour, PhD
Stanford Research Institute
Menlo Park, Calif.

Rebecca C. Moore
College student and person with CFS
Hyde Park, N.Y.

James Oleske, MD
University Hospital
Newark, N.J.

Christopher R. Snell, PhD
University of the Pacific
Stockton, Calif.


○運営委員
Mike Kaplan
Kaplan & Company
Charlottesville, Va.


○講演者
Joseph Cannon, PhD
Medical College of Georgia
Augusta, Ga.

Daniel J. Clauw, MD
Georgetown University Medical Center
Washington, D.C.

Sam Donta, MD
Boston VA Medical Center
Boston, Mass.

M. Ronald Glaser, PhD
Ohio State University
Columbus, Ohio

Sidney Grossberg, MD
Medical College of Wisconsin
Milwaukee, Wis.

Andrew Lloyd, MD
University of New South Wales
Sydney, Australia

Kevin Maher, PhD
University of Miami School of Medicine
Miami, Fla.

William B. Malarkey, MD
Ohio State University
Columbus, Ohio

Andrew Miller, MD
Emory University
Atlanta, Ga.

Robert Shapiro, MD, PhD
University of Vermont
Burlington, Vt.


○パネル講演者(日曜午後の部)
Anthony L. Komaroff, MD
Harvard Health Publications
Harvard Medical School
Boston, Mass.


○モデレーター、手法に関するワークショップ
Nancy Klimas, MD
University of Miami School of Medicine
Miami, Fla.


○準備委員会
Laurence A. Bradley, PhD
University of Alabama at Birmingham
Birmingham, Ala.

Ilia J. Elenkov, MD, PhD
Georgetown University Medical Center
Washington, D.C.

Tim Gerrity, PhD
Georgetown University Medical Center
Washington, D.C.

M. Ronald Glaser, MD
Ohio State University
Columbus, Ohio

Eleanor Hanna, PhD
National Institutes of Health
Bethesda, Md.

Leonard A. Jason, PhD
DePaul University
Chicago, Ill.

Nancy G. Klimas, MD
University of Miami School of Medicine
Miami, Fla.

Andrew Miller, MD
Emory University
Atlanta, Ga

Dimitris A. Papanicolaou, MD
Emory University
Atlanta, Ga.

Peter C. Rowe, MD
Johns Hopkins University
Baltimore, Md.

David Robertson, MD
Vanderbilt University
Nashville, Tenn.


翻訳:Jp-Care, M.K.


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