慢性疲労への対処法とヒント

Richard L. Bruno、医師

Mail Magazine ME/CFS Information, No.65, 2003.1.14


サイト:http://listserv.nodak.edu/scripts/wa.exe?A2=ind0202c&L=co-cure&F=&S=&P=233
原題:Tips and Techniques for Treating Chronic Fatigue
著者:Dr. Richard L. Bruno



ブッシュ大統領がフットボールの試合を観戦中に、プリツェル(訳者注:乾パンのような菓子)を飲み込んで気絶しました。その後、それは、プリツェルが食道を刺激して、血圧が低下したことによるものであるとの説明がなされました。私も食道に食べ物が詰まりそうになり、倒れそうになったことがあります。また、食べ過ぎたりすると、その後でめまいやひどい疲労を感じることもあります。そして、慢性疲労を抱えている方々も、同じ経験持っています。これらはCFSの症状なのでしょうか?

ブッシュ大統領がプリツェルを飲み込むと、それが食道を刺激し、その刺激により血圧が下がり、気絶をする。そんなこと、聞いたこともないという方もいるかもしれません。しかし、世界の約2,000万人のポリオ経験者と約1,000万人のCFS/ME患者は、そうではないでしょう。

そのとき大統領に生じた問題は、プリッェルが迷走神経(食道と胃への主要神経伝達経路)を過剰刺激したことによるものではないかと考えられます。迷走神経は、物を飲み込む時、脳幹ニューロンから出される「のど、食道、胃の筋肉を動かせ」という命令を伝達しています。同様に、迷走神経は、「心筋の運動を遅らせ、血管を拡張せよ」という命令も伝達しており、そのため迷走神経が刺激されると血管が拡張し、血圧低下を引き起こします。これは、一般的な失神の原因であり、それによる失神は、血管迷走神経失神と呼ばれています。

また、迷走神経は、心臓と腸への信号と心臓と腸からの信号の双方向伝達経路であり、のど−食道−胃の中にある食べ物の量についての情報は、迷走神経を通り同じ脳幹ニューロンへ伝達されます。そのため、プリツェルが詰まっていたり、満腹であるというようななんらかの食道への刺激により、迷走神経が大きく刺激されると、血圧の低下や失神を引き起こすことがあります。これが、大統領の失神の原因であろうと思われます。

ブッシュ氏にとっては、おそらく今回だけのことかもしれませんが、しかし、ポリオ経験者や低血圧、慢性疲労、めまいなどの症状を持っている方々には、頻繁に生じていることなのです。ポリオウイルスは、迷走神経を制御する脳幹ニューロンを損傷することや迷走神経自体を損傷する場合があることが知られており、我々の経過観察によると、食後に強い疲労を感じるポストポリオ患者(Post-Polio Patients)の数は増える傾向にあります。食べ物がのどに詰まったり、胃に食べ物が満たされ、迷走神経が異常に刺激され、血圧低下が生じることで、ポリオ経験者が失神することはあまりありません。しかし、それは深刻な疲労の原因となります。

1995年にPeter Rowe医師(小児科)は、CFS患者が起き上がったり、シャワーを浴びたり、暑い部屋にいたりすることで、血圧が低下し、疲労が生じる人もいると報告しています。これは、「暑さにより1/3以上のポリオ経験者で疲労感が増した」という1985年に我々が行ったポストポリオ調査の結果と同じ傾向を示しています。また、ポリオ経験者と同様、CFS患者にも起立後に手足に紫変が見られています。この慢性疲労患者における紫変は、1959年に既に報告されており、冷たく紫色になる「ポリオ脚(polio feet)」と酷似しています。これらの知見から、ポリオ経験者と慢性疲労患者は血管の太さを制御する能力が低下しているため、血液の滞留と血圧の低下が起こり、その結果、疲労が生じていると考えられます。

2001年に我々が行った国際慢性疲労調査により、CFS/ME患者が失神する頻度は、慢性疲労が生じる前と比べて2倍近くになることが明らかとなりました。1995年に我々が行った国際ポストポリオ調査では、ポリオにかからなかった人と比べて、ポリオ経験者の失神の頻度が高いという結果は得られていません。しかし、失神の経験がない人に比べて、失神の経験がある人は、日常生活で深刻な疲労を感じていることが明らかとなりました。これは、脳幹血圧制御ニューロンと迷走神経ニューロンへの損傷が、脳活性化ニューロンの損傷と関連している可能性を示唆しています。また、我々の研究を含む、多くの研究結果は、これらのニューロンは、ポリオ経験者とCFS/ME患者の「脳の疲労」と関連があることを示唆しています。ポリオ経験者と慢性疲労患者は、ともに脳幹ニューロンの異常と関連する血管と血圧の異常が見られており、それは、脳活性化ニューロンと血圧制御ニューロンがウィルスにより損傷を受けたことによるものではないかと思われます。

では、どうしたらよいのでしょうか?まず、慢性疲労を持つすべての方々に対して、横になっているとき、座っているとき、起立しているときのそれぞれの心拍数と血圧を測定する必要があります。その結果から、血圧低下と疲労に関連が見られる場合には、血液が脚に滞留するのを防ぐための圧縮ストッキングが有効です。それでも効果が見られない場合には、低血圧の専門医にご相談ください。血流量を増加させたり、血管を細くして脚に血液が滞留しないようにする薬があります。また、疲労が食事によるものである場合には、少しづつ食べる、食事中に水を飲む、量を少なく回数を多くする、高タンパク食にするなど、のどに食べ物を詰まらせたり、食べ過ぎて迷走神経を刺激しないようすることで、疲労や失神が起きないようにすることができます。


Richard Bruno、医師

Englewood病院、メディカルセンター疲労管理プログラム、Post-Polio Instituteディレクター。新著に『THE POLIO PARADOX: UNCOVERING THE HIDDEN HISTORY OF POLIO TO UNDERSTAND TREAT "POST-POLIO SYNDROME" AND CHRONIC FATIGUE』2002、Warner Booksがあります。Eメール:PolioParadox@aol.com


参考文献

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Bruno RL. The Polio Paradox: Uncovering the Hidden History of Polio to Understand and Treat "Post-Polio Syndrome" and Chronic Fatigue. Warner Books, 2002, in press.

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翻訳:Co-Cure-Japan, MN


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