出産とCFIDS:難しい決断

Dr. Charles Lapp

The CFIDS Chronicle, 2000, Summer, Vol.13, Issue 3
掲載


 子供を産むことは、皆さんの生活における主要な事柄です。もし、あなたがCFIDSに罹っていると、その決断はより難しいものになります。CFIDSに罹っている方々は、妊娠と育児のことを考え不安になるでしょう。しかし、それらの不安を解消してくれるような情報を手に入れるのは大変難しいのです。残念ながら、妊娠とCFIDSの関係に関する研究は大変少なく、手に入る情報は、文書化されたものではなく、医学的私見がほとんどです。

ここでは、皆さんに一般的なアドバイスを与えることを目的としています。しかし、CFIDSに罹っている女性で妊娠を考えている方は、これらの問題に関して、両親や医師と十分な話し合いをする必要があります。既に、順調に子供を産み、育児に励んでいる、CFIDSを持った夫婦がたくさんいます。細心のアドバイスを行うことで、それらの経験をより楽で、楽しいものにすることができるでしょう。



妊娠するかどうかの決断

 妊娠をしたCFIDSを持つ方々の診療記録では、妊娠の期間中、気分が幾分よくなるか、または変わりが無いという方が多数を占めています。この点に関しては、私も同様の経験を持っています。

 最近の報告では、CFIDSに罹っている間に妊娠した27人中25人の方が妊娠中に体調がよくなった、という結果もあります。一方で、約1/3の方々が、出産の後、症状の悪化を経験しています。

 この原因としては、免疫系の作用が考えられます。異なる自己免疫状態(多発性硬化症など)においても、同様に、妊娠期間中の症状の軽減が見られます。これは、本来の自分のものでないものや細菌等を攻撃するのと同様に、胎児を攻撃してしまわないように、免疫システムの一部が停止させられるという考えです。

 妊娠期間中にホルモンが分泌されることに対する反応も考えられます。母親が母乳を与えるときに分泌するホルモンであるオキシトシンを、CFIDSの患者に処方した例があり、Jay Goldson医師は、対象とした患者の1/5に改善が見られたと報告しています。

 正式な研究ではなく、診療経験を元にしたものですが、CFSに罹っている方々は最初の三ヶ月間での流産の危険性が高いかもしれない、ということを知っておいた方がいいでしょう。

 1998.9.28American Journal of Medicineに発表された研究により、CFIDSに罹っている女性は、生理の周期が不規則になっている割合が高いこと、ホルモンのバランスが崩れ、妊娠の可能性や正常な妊娠に関係する、卵巣の嚢胞や月経が影響されていることが明らかになりました。しかし、CFIDSを持つ母親に関する私の調査では、妊娠に失敗する確率が、一般的に予想される値よりも高いという結果は得られていません。一度またはそれ以上の経験しているのは、27人中4人だけでした。



子供の健康に及ぼす影響

 CFIDSを持った女性でも、その大多数が通常どおりの健康な子供を授かっているようです。CFIDSを先天的に持って生まれた子供がいるかどうか正式な調査は、まだ行われたことはありません。また、この病気は遺伝するのか、遺伝的に子供がCFIDSに罹る可能性が高くなるのか、未だ明らかになっていません。

 この病気が同じ家族の中で多く見られる例があることから、CFIDSは遺伝するのかしないのか、しばしば問題とされてきました。1985New YorkLyndonvilleで起こった集団感染では、発症者の15%以上が家族内に別の発症者がいたと、David Bell医師は報告しています。しかし、このことが必ずしも、CFIDSが遺伝するということを表している訳ではありません。

 何人かの医師や研究者達は、CFIDSの病因を、未確認の何かの感染である、または免疫系が弱い人の既知のウイルスが活性化されることにより生じるのではないかと考えています。この、”抵抗力の弱さ”は、遺伝するかもしれませんし、または遺伝学的な問題かもしれません。また、環境中の有害物質に家族全員が曝されることで、免疫系にダメージを受けることによるのかもしれません。

 もしこの病気がウイルスによるものであれば、胎児が産道を通るときや母乳から感染する可能性もあります。これらの確率は低いものですが、心配な方々は、より感染の確率を低下させるために、母乳ではなく哺乳瓶を使うことを考えるかもしれません。

 母乳を与えるかどうかというのは、母親と子供の健康に何が一番良いのかを踏まえ、それぞれ個人が考えなければならない問題です。母乳を与えることは、子供にとって重要な抗体源となり、あなたにとっては哺乳瓶を消毒したり、用意したりする作業を省くことにもなります。一方で、哺乳瓶を用いることで、子供の健康への影響を心配することなく、薬を服用することができますし、母親の代わりに別の人が飲ませてあげることもでき、母親が休息できる時間が増えることになります。



*妊娠と出産、Sarahの場合

 私は、MEまたはCFIDSと呼ばれる病気に罹って8年になります。2度妊娠に失敗しましたが、妊娠促進剤を試したところ、娘のJuliaを身ごもる事ができました。

 遠い産院まで出かけ、長い時間暑い部屋の中で待たされたため、産院に行くと体調が急激に悪化することがあったことを除けば、私は、妊娠期間中、平穏無事に過ごすことができました。また、何度かひどい風邪をひいてしまい、MEと妊娠と風邪を一度に対処することは無理だと思うときもありました。

 ありがたいことに、私の夫
Johnが色々助けてくれました。私の体調が悪いときには、早めに帰宅して夕飯の準備もしてくれました。また、いろいろな店を巡らなくても済むように、子供用品は通販で揃えました。そして、出産までの間は、出産に向けてエネルギーを蓄えておくために、安静にしていることにしました。また、出産の後は、静かな場所で、ゆっくりと休息を取るため、5日間を病院の個室で過ごしました。
 
 出産は痛みと激しい疲労を伴いますが、それは、娘Juliaを授かったことを思えば、十分に価値のあることだと思っています。だから、私はまた子供を産みたい思っています。



妊娠と出産に対して考えておくべきこと

 CFIDSに罹っている方々にアドバイスできることは、妊娠する前に、処方された薬や家庭の常備薬などの服用を止めることです。それは、胎児に悪影響があるかもしれないからです。坑鬱剤や鎮痛剤などの薬は、その服用量を徐々に減らして行く必要があり、先ず、医師と話し合ってください。

 妊娠を考えている方々は、ハーブ製品や栄養補助食品(出産前に必要なビタミン摂取と医師から勧められたサプリメントを除いて)を止めるべきです。ほとんどの場合、それらが胎児にどのような影響を与えるのかという十分なデータはありません。安静にしていることで、出産までのエネルギーを蓄えることができ、また出産後も短期間での回復が望めます。鎮痛剤の使用に関しては、出産予定日を考えて、助産婦や産婦人科医と良く話し合う必要があります。

 また、覚えておいていただきたいのは、健康な初産の母親に比べて
CFIDSに罹っている母親は、出産後の入院期間が長くなるということです。イギリスにおけるCFIDSを持つ27人の女性の調査では、CFIDSの症状が原因で、そのうち半数が産後の入院期間が長くなったという結果が得られています。保険会社が入院期間が長くなった分の保険の支払いを拒否しても、医師の支援が受けられるかどうか、出産前にこれらのことについて医師と良く話し合いう必要があります。



出産後の対処

 赤ちゃんまたは幼児の世話には、感情的、体力的に十分なエネルギーが必要です。CFIDSを持つ男性、女性にとって、どうやって子供の世話して行くかということは、子供を持つか持たないかを決断するときの最も大きな要因となります。

 両親、祖父母、友人、近所の方々の支援ネットワークを持つことは、大きな支えになることでしょう。もし、頼れるネットワークを持っていなければ、誰かを雇うことを、事前に考えておく必要があるかもしれません。家計に余裕が無い家庭では、その地域の大学で幼児教育や介護を学んでいる学生にお願いすることになるかもしれません。

 座ったり、横になって、食事を与えたりオムツを換えたりすることで、体力を温存することができます。小さな赤ちゃんであれば、一日に2時間ほどしか起きていられません。赤ちゃんが眠たくなりそうな時間を考えて、そのときに寝かしつけることで、毎日のスケジュールを立てたり、より多くの休息を取れるようになるでしょう。

 これら以外の事柄については、近くの支援団体に連絡をして、お互いの経験を話し合い、学び合うことができる同じ境遇の両親はいないかどうか尋ねてみてください。



*子供の世話、Rushの場合

 私の娘Nadineが生まれて3ヶ月の頃、私は病気に罹りました。他の人にミルクを与えてもらわなければなりませんでしたし、彼女が泣いてもベッドから起き上がることすらできませんでした。

 娘が6ヶ月を過ぎた頃、私はCFSと診断を受けました。徐々に病状は快方に向かいましたが、Nadineの1歳の誕生日の直前に急激に体調が悪くなってしまいました。そのときに、夫と私は、この問題がもっと深刻なものであるということに気が付きました。そして、私達は、一般的な母親のイメージを捨て、Nadineと私の世話をお願いすることにしました。

 大変なことになったとお思いかもしれませんが、そんなことはありません。色々なヘルパーの方々が入れ替わり立ち替わりやって来るので、Nadineのことが心配になりましたが、目に見えて問題となることはありませんでした。それに、夫はこれまでに比べて、子供の世話に関わるようになりました。夫が帰宅すると私の一日の役目は終わったと感じることができました。

 支援という点では、家族や友達は一生懸命私達に協力してくれました。最初は、助けをお願いするのに気を使いましたが、今では、私達なりのルールができてきました。それは、先ず、私が逆の立場に立たされたら同じ事をしてあげるだろうか?と自問して、その答えがYesならば、私達は彼らに援助を頼むことにするというものです。

 一番辛かったことは、社会生活です。昼間に子供をつれた友達が遊びに来ても、ほとんど一緒にいることはできませんでした。このごろは、私がすぐに疲れてしまうので、私達は、Scrabble(パズルゲーム)やビデオ、お喋りをしたりすることから楽しみを見出すようになりました。

 *これらの話は、www.pregnet.orgの中から取り上げたものです。妊娠や育児にかんするいろいろな体験談は、同サイト中の”ケーススタディ”に載っています。



Charles Lapp医師
Hunter-Hopkinsセンター、NC
Duke大学、家庭社会医療講座、助教授
(Clinical Associate Professor of Family and Community Medicine at Duke Univ.)



出典
The Action for ME/CFS Pregnancy Network
www.pregnet.org
Action for ME/CFS
PO Box 1302, Wells, BA 51YE

Moms in Touch
PO Box 124
Chestertand, OH 44026



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ここでは許諾を得て掲載させて頂いています。




翻訳:
Jp-Care


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