Frank Albrecht, PhD
目次
序文
1.個人的なこと
2.子供達の予後
3.CFSの治療
4.理論
5.名称変更---再び
序文
なるべくこのニュースレターを楽しいものにしたいと思っているのですが、今回は全体的に重要な事柄が多く、少し深刻で、硬いものになってしまったことをお詫び致します。
1. 個人的なこと
前回は、去年の10月29日にニュースレターの配信を行いました。その後、私はデータの解析や、「The natural course of CFS in adults」という論文の草稿書きに集中していました。これは、デンマークのコペンハーゲン大学において、Mette Marie Andersen, MDと彼女の助手Henrik Permin, MDと共に6年程前から行っている研究の成果です。先月のシアトルで開かれたAACFS会議において、私達は、その研究結果をポスター発表する機会に恵まれました。私達が出した結論はシンプルです。その部分を発表の概要から抜粋すると次のようになります。
結論:CDCのクライテリアに適合しているCFS患者達は、深刻で長期間にわたる機能障害を呈しています。本質的な改善はほとんど見られません。いくつかの方法で症状が改善しても、他の方法では悪化します。アレルギーや認知能力は悪化する傾向があります。しかし感情適応能力(Emotional adjustment)は、病気の経緯によらず、しばしば改善されて行く傾向を持っています。すなわち、ほとんどの成人CFS患者達は、この病気の病態が大きく変動すること、そして本質的な変化は無いということを既に理解しているということです。感情適応能力に関するこの知見は、それらの障害とCFSの間に何ら相関が無いことを示しています。
Mette Marie Andersenさんは、CFS情報サイト(CFS-Information
International)を運営されています。
2.子供達の予後
今年のAACFS会議では、初めて、子供と青年に関するセッションが設けられ、15分の講演が4件行われました。また、ポスター発表に関しても同様のコーナーが設けられました。
会議では、予後に関して二つの重要な発表が行われました。David Bell医師は、13年以上前に彼が診察した、当時18歳前後であった方々の調査の結果についての発表をおこないました。この調査によると、穏やかな症状は続いているものの、その状態に”満足”している方々が80%、いまだ病気が続いている、または重い症状を抱えている方々が20%でした。オーストラリアのCatherine Rowe医師は(Johns HopkinsのPeter Rowe医師ではありません)、200人の青年の患者の追跡調査を行った結果について発表を行いました。調査時で、彼らは、一般的な治療を受け始めてから1年から9年経っていました。調査によると、30%の方々が良好であり、60%の方々が学校へ行ったり、通常の仕事についていました。そして、65%の方々が、より早期の診断、より多くの情報、医師、家族、友達、特に学校関係者のより深い理解と認知、そしてより良い自己管理ができていれば、もっと上手くこの病気に対処できていただろうと感じていました。
医学界では、「子供達にCFSであると告げると、症状を不必要に助長させることになる」と幅広く考えられています。これはこの病気に対する偏見によるもので、事実ではなく、むしろ子供達のやる気や衝動に関する根拠の無い仮定に基づいています。そのため、青年達の調査結果から「より早期の診断が有効であった」ということが明らかになったのは喜ばしいことです。
上記の研究やその他の研究から、少なくとも成人の場合に比べて、子供のCFSの予後は良好であることが示されました。しかし私は、まだ疑問を持っています。Bell医師が調査したほとんどの患者達は、狭い地域内で集団感染した患者達でした。狭い地域で集団発生した場合、単発的なケースに比べて、平均的に予後は良好なのかもしれません。そして、成人の場合、その単発的なケースにあたるように思われます。Catherine Rowe医師のケースについては、詳しいことが分からりませんが。また、これらの調査で、明らかに回復された方々は、その後、本当に、再び症状がでたり、以前のように病気が重くなったりしないのかという疑問も残っています。
どうやって回復や改善の度合を決めるかということもはっきりしていません。Bell医師の患者達の場合、自分自身では良いと答えていても、依然として重い症状を抱えていました。たぶんCatherine Rowe医師の患者達にも、同じことが当てはまるでしょう。私がMarie AndersenとHenik Perminと行った研究では、私達が取った長期間のデータ(診断時とそれから5年後に全く同一の質問をし、その回答結果を元にしています)は、患者個人による症状の評価と一致しない場合がしばしば見られました。言い換えれば、「良くなってきた」と答える方々は、継続した調査をしてみると、症状の度合いや能力に関して実際は悪くなっているのかもしれません。同じことが「悪くなった」という方々にも当てはまり、そう答えた内の何人かは、0から5年までの繰り返し調査によると、実際には良くなっていました。従って、単に良くなっているか悪くなっているかと質問するのだけでは、実際に病状がどのように変化しているのかを知ることはできないと考えられます。
3. CFSの治療法
アンプリジェンにより症状が改善されたという報告がいくつかありました。治験的に賛否が分かれているアンプリジェンとは、RNAの不安定形のことで、最低1〜2週間の静脈点滴が必要です。数例ですが、長期に渡る症状の改善が見られています。しかし、この薬は、アメリカでは承認されておらず、今のところ、この薬を服用するには、製薬会社(Hemispherx Biopharma)が行っている薬の臨床試験の被験者となる以外にはありません。いくつかの国々では、アンプリジェンによる治療が可能ですが、治療期間が長く、大変高価なものです(訳者注1)。
Modafinil(別名ProVigil)は、日中の激しい眠気を押さえるための薬で、睡眠発作の治療薬として認可されました。オハイオ州立大学のKW Rammohanらは、この薬は多発性硬化症における疲労感を軽減させると報告しています。この結果から、CFSやその他の疲労性疾患にも同様の効果があるのではないかと期待できます。
Etanerceptは、腫傷壊死因子(TNF)受容体で、リュウマチの治療薬として認可されました。この薬は、TNFが通常の受容体と結合するのを妨げる働きを持っています(TNFは、CFSで何らかの役割を担っていると考えられている炎症性サイトカイン(Pro-inflammatory cytokine)です。サイトカインとは、インフルエンザに罹った時など、病気であるという信号を運ぶ免疫系の伝達物質です)。ミネソタ医療大学のK.Lambrechtらは、CFSにおけるEtanerceptの先駆的な研究を行い、リンパ節の痛み、頭痛などの症状が大きく改善されたと報告しました。また、そのほかの症状に付いても、改善の傾向が見られると報告しています。だからといって、皆さん、この薬に慌てて飛びついたりしないで下さい。彼らの研究は、条件の揃っていない僅か6名の患者による結果なのです。しかし、今後プラシーボ(偽薬)試験が行われるはずで、これは大変素晴らしい進歩だと思います。
最後に、マイアミ大学のNancy Klimas医師は、今回の会議で唯一、全国的なニュースとなる研究結果を発表しました。Klimas医師は、CFS患者のリンパ節の細胞を取り出し、11人の細胞を、炎症性サイトカインを減少させて、実験室で培養しました。10〜12日後に、培養された細胞を元の被験者へ点滴し、24週にわたってその後の経過を観察しました。その結果、被験者の認知、機能レベルにおいて大きな改善が見られたのです。
これは素晴らしい結果だと思います。しかし、すぐに実際の治療が行われるようになるわけではありませんので、過大な期待は禁物です。
認知行動療法(CBT)、集中入院リハビリテーション(Intensive Inpatient
Rehabilitation)、その他の方法により、機能的改善が見られたという報告がいくつか行われました。会議参加者の中から、これらは病気の改善というよりはむしろ対処法の改善であり、”治療”ではなく”体調管理”と呼ぶべきではないかという意見も出されました。この指摘に憤慨した女性が一人いました。残念ながら名前を忘れてしまいましたが、彼女は、CBTの研究者に、コミュニティカレッジでCFSの対処法についての講座を取った後、わずかに症状が改善したことを説明し、それなのにこれは治療でないのか?と訴えました。発表者は良くわかっていないようでしたが、私は彼女の意見に賛成です。CTBやその他の心理的、教育的管理手法は、ガンや心臓病など、全ての慢性疾患に対して大変有効な手法です。しかし、これらの手法は、一般的に”治療”とは考えられてはいないのです。
4. 理論
このトピックに関しては、簡単に独断的に述べることにします。以下は、このことに対する私の現時点での私見です。
今回の会議で発表されたどの研究においても、CFSは、「広範に生化学的異常がみられる」、「免疫系に大きな不均衡がある」、「感情神経系の反応が低下している」、「運動時の酸素活用能力が低下している」、「血流に障害がある」ことに疑いの余地はありません。いまだに、それらの裏に隠れているこの病気の原因(誘引)は明らかになっていませんが、しかし、どうやってこれらの問題がつながっているのかを解き明かすヒントは得られています。
生化学的には、たんぱく質の異常、RNAの異常が見られます。中でも重要な点として、RNase(訳者注:リボヌクレアーゼ、RNAを切断する酵素)に異常分裂が見られ、質量の軽いRNase-Lになっていることがあげられます。そして、それがまた逆に、最近研究が行われ始めている一連の生化学的異常と関連しているのです。またこれらの変化は、酸素活用能力の低下や炎症性サイトカインの過剰生成とも関連しています。同様にこの病気で見られ、間違いなく何らかの関係があるのは、感情神経系の反応の低下です。それは、血流、脈拍、血圧の問題、慢性的鼻炎、喉の痛みにつながる副鼻腔の問題、通常の身体的ストレスへの対処に必要な神経ホルモンレベルの低下の原因となります。
これらの異常は、同時に働き、個々の体調に依存して、インフルエンザのような感覚や体温調節の問題、極度の疲労、特に運動後の疲労、直立姿勢をとるなどの身体的ストレスへの対処能力の低下、喉の痛み、睡眠障害、認知障害、種々の痛み、個人によって度合いが異なっているその他の症状を発生させます。
そして、今残されていること、私達が今やらなければならないことは、それらの治療をすることなのです。
5. 病名変更---再び
The National Institutes of Health (NIH)の病名変更ワーキンググループは、シアトルで行われたAACFS会議において、公開討論会を開催しました。また、専門家だけの非公開の会議も設けられ、私はその両方に参加しました。
「この病名には問題があり、変更するべきである」と参加した大多数の専門家達は考えていました。それよりも数は少なくなりますが、多くの方が今年中に変更するべきであるという考えを持っていました。変更を今年中に行うべきではないと考えている方々は、適当な代替案がまだないと考えているようでした。
公開討論会では、すぐに病名を変更した方が良いとだれもが考えていました。大多数の方は、MEという歴史のある病名を支持しており、少数派ですが、神経-内分泌-免疫障害(NEID)等その他の病名を支持している方々もいました。カナダ-ナイチンゲール基金のBryon Hyde氏は、投票を提案しましたが、議長はその提案を取り上げませんでした。
現在のところMEは、Myalgic Encephalomyelitis(筋痛性脳脊髄炎)の略で、イギリスにおいて付けられた病名で、他の多くの国々でも用いられています。MEは、CFSよりも長い歴史を持ち、国際疾病分類(訳者注2)にも登録されています。
MEという病名の問題点は、全ての患者がMyalgia(筋肉痛)を持っていないこと、この病気では脳の炎症(Encephalomyelitis)を生じないことです。これは、以前の考え方が間違っていたことによるものです。現在では、多くの人がMEを「筋肉痛を伴う脳の病気」Myalgic Encephalopathyとするように望んでいます。イギリスME協会のShepherd医師は、「筋障害を伴う脳の病気」Myo-Encephalopathyとすることを提案しました。筋肉痛と筋力低下の両方の意味を持つ筋障害であれば、ME/CFSに必ず当てはまるため、これは良い考えだと思います。
そう、今私が使ったME/CFS。私は、今すぐ、そう呼び始めるべきではないかと考えています。全員が、今すぐに。
そして、私はこの討論会で次のように発言しました。
現在、MEという病名は世界的に多くの方々に浸透しています。NEIDは現在の医学的知識から見て適当な病名ですが、私は、その病名が幅広く支持されるとは思えません。公式に病名変更がされたとしても、それを使用するのは、ほんの僅かの方々だけでしょう。何人かは、CFSやCFIDSと呼び、ほとんどの方々(特にアメリカ以外の方々)は、依然MEと呼びつづけるでしょう。ここで、これ以上の混乱を引き起こすことだけは避けなければいけません。
しかし、単にMEと呼んでしまうと、ほとんどの方がその病名を聞いたことが無いアメリカでは受け入れられにくくなるでしょう。従って、ME/CFSとするべきではないかと思うのです。何年もかかるであろう、病名変更ワーキンググループ、CFS委員会、NIH、行政が公式に病名変更を行うまでの間、そのときまで、(MyoかMyalgicかはお任せしますが)ME/CFSという病名を使用して行きましょう。
(訳者注1)アンプリジェンFAQによると、アンプリジェンは、カナダとベルギーで処方されているようです。ただし、本文中にもあるように、コストが高く、上記FAQによると1.2万〜1.8万US$(150〜200万円ぐらい)のようです。
(訳者注2)WHOは、疾病分類を標準化する目的で、国際疾病分類(The
International Classification of Diseases: ICD)を制定し、その利用を加盟各国にすすめています。
当初は単なる死因統計のための疾病コードに過ぎませんでしたが、近年、これを日常の診断や治療に積極的に利用しようとする動きが世界的趨勢となっています。
翻訳:Jp-Care
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