CFS治療における抗うつ剤の使用 

Charles Lapp, MD

Mail Magazine ME/CFS Information, No.20, 2002.3.7

Using Antidepressants to Treat Chronic Fatigue Syndrome
http://www.cfids.org/archives/2001rr/2001-rr3-article01.asp



 抗鬱剤は慢性疲労症候群(CFS)の治療に有効であることが確かめられています。抗鬱剤は、睡眠障害、エネルギーレベルや認知障害を改善させ、また苦痛を和らげる効果もあります[1-3]。(CFSに罹ってしまったためにうつ状態になることはありますが)これらの薬が有効なのは、患者がうつ病だからではなく、CFS患者には神経伝達物質であるセロトニンとドーパミン量の低下が多く見られるためであることを強調しておく必要があります[4]

 私が診療しているほとんどの患者で抗鬱剤の効果が見られています。下記のチャート(上記サイトの原文参照)は、
CFS患者に良く処方されるいくつかの抗鬱剤グループから代表的なものを抜き出したもので、全ての抗鬱剤が網羅されているわけではありません。以下では、抗鬱剤に関する研究の要約と私が患者に処方する薬を決めるために用いている手法をご紹介します。


これまでの研究

 
CFSに対する抗鬱剤の効果に関する研究の数は多くはありませんが、そのほとんどの研究で特定の症状に対する効果があることが示されています。

 副作用により服用を中止した患者もいましたが、
6週間のNardil (phenelzine)[monoamine oxidase inhibitor (MAOI)]の処方を受けた患者のうち数人で、症状の大きな改善が見られたと報告されています[1]。また、Manerix (moclobemide)[異なるMAOI]の結果では、疲労感の大きな軽減が見られています[3,4]。しかし、残念ながらmoclobemideはアメリカでは処方することができません。

 
Pamelor (nortriptyline)[三環系抗鬱剤(TCA]は、一例だけ二重盲検法を行った研究があり、60mg/dayの服用により、CFSの症状が大きく軽減しています[5]。コントロールを用いた試験から、TCAは、CFSと多くの類似点を持つ線維筋痛症(FM)にも効果があることが確かめられています[6]

 これらの研究から有望と思われていましたが、うつを伴う
44人と伴わない52人のCFS患者へのProzac (fluoxetine)の効果に関する研究がオランダで行われ、その効果は全く確認されませんでした。論文の著者は、うつを伴っている患者においても改善が見られなかったのは、CFS患者とうつ病患者では脳内化学変化が全く異なっていることを示唆していると結論付けています[7]

 うつを伴わない
CFS患者79人の非コントロール群による研究では[8]Zoloft (sertraline)により、大きな改善が見られています(特に疲労、筋肉痛、睡眠障害の程度)。

また、抗鬱剤は免疫系にも効果があると考えられています。マイアミ大学の
Nancy Klimas博士は、複数のSSRIの免疫系に及ぼす影響について研究を行いました。その結果、3ヶ月間Prozacを服用したCFS患者において、ナチュラルキラー細胞の数が中程度以上の改善を示したと報告しています[9]



正しい薬の選択

 
CFS患者に処方する抗鬱剤を決める時には、第一に睡眠障害があるかどうかをチェックします。下記のチャートを見ると、鎮静作用があり、睡眠に効果があるものとして、Desyrel (trazadone), Remeron (mirtazapine) Serzone (nefazadone)が見つかります。特にDesyrelは、第3段階、第4段階の睡眠(深い睡眠)を促進する働きがあります。


 
Wellbutrin (bupropion)Prozac Zoloftは、CFS患者の知覚エネルギーレベルを増加させる効果が強く、むしろ覚醒作用を持ち、深い睡眠を妨げることがあります。いくつかの興奮剤は、中枢神経系の過剰興奮状態を引き起こし、発作のリスクを増加させることがあります。

 私が考慮しているもう一つの因子として、痛みがあります。
TCAは中枢神経系のノルエピネフリンレベルを上昇させ、痛みに対する感覚を鈍くする働きがあります。これは、Elavil (amitriptyline)FMCFSに対してよく用いられる理由でもあります。しかし、Elavilは誘眠作用を持ちますが、深い眠りを妨げる作用もあり、睡眠障害を持つCFS患者への長期間の処方は、最良の選択とは言えません。Effexor (venlafaxine)は、セロトニンとノルエピネフリン再取り込み阻害剤で、同様に痛みに対する感覚を鈍くする働きがあります。

 
Wellbutrinは、最初に市販された抗鬱剤で、通常、脳内でセロトニンとバランスしている神経伝達ドーパミンレベルを増加させます。セロトニンの服用からくる苦痛に耐えられない患者には、Wellbutrinが適当でしょう。Wellbutrinは、単独で処方される場合や他の抗鬱剤と併用されることもあります。


 
Remeronもまた脳内のアルファ2受容体とヒスタミン受容体に働く特異な効果を持つ薬です。低用量(7.5-30mg)では、ヒスタミン効果により睡眠を誘いますが、30mg以上になるとアルファ2効果が現れ、エネルギーレベルを上昇させます。精神科医はまれに4560mgを処方することがありますが、製薬会社による推奨最大処方量は、30mgであることを念頭におく必要があります。Remeronのヒスタミン効果は食欲を刺激することから、この低用量治療を受けている患者で急激な体重の増加がみられることがあります。

 血圧や心拍数に大きな変動が生じる神経調節性低血圧や起立不耐性を持っている患者に対して、医師は、それらの症状に効果のある抗鬱剤を処方することでしょう。
Prozac, ZoloftPaxil (paroxetine)は、コントロール群のブラインドテストによる研究で、自律神経機能を改善することが報告されています。


 抗鬱剤は数多くの副作用を持っています。
Wellbutrin, Desyrel, RemeronSerzoneは、その副作用として極まれに性障害を生じさせることがあります。またProzac, ZoloftPaxilは性的欲求を抑制する効果があります。 最も強い抗コリン効果を持つ薬であるPaxil, ElavilDesyrelは、ドライアイ、のどの渇き、目の霞を生じさせることがあります。また、いくつかの抗鬱剤は、肝臓での解毒作用であるチトクロームP450系に影響を与えます。この反応が薬により妨げられると、摂取した薬が代謝されずに体内に蓄積され、副作用のリスクを高めることになります。



そのほかの臨床時の注意

 最も効果的な薬を選択するには、患者の病歴を良く知ること、個々の患者の症状に合った薬を用いることが必要です。医師は、
CFS患者には薬に対する過敏症や特有の反応が多く現れることに気をつけなければいけません。また、CFS患者はうつ病の患者に比べて極少量でも反応を示すこともあります。そのため、私は通常量の1/21/3の低用量から徐々に始めています(用量についてはチャート参照)。患者によっては、さらに用量を減らす必要があるかもしれません。服用量を調節しやすいため、Sinequan (doxepin)など、液状で処方できる薬が便利でしょう。



参考文献

[1]Natelson BH et al. Randomized, double blind, controlled placebo-phase
in trial of low dose phenelzine in the chronic fatigue syndrome. Psychopharmacol. 1996; 124: 226-30.
[2]Goodnick PJ. Treatment of CFS with verlafaxine. Am J Psychiatry. 1996; 153: 294.
[3]White PD and Cleary KJ. An open study of the efficacy and adverse effects
of moclobemide in patients with the chronic fatigue syndrome. Int Clin Psychopharmacol. 1997; 12: 47-52.
[4]Hickie IB et al. A randomized, double-blind, placebo-controlled trial of moclobemide in patients with chronic fatigue syndrome. J Clin Psych. 2000; 61: 643-8.
[5]Goodnick PJ and Sandoval R. Psychotropic treatment of chronic fatigue syndrome and related disorders. J Clin Psych. 1993; 54: 13-20.
[6]Blondel-Hill E and Shafran SD. Treatment of chronic fatigue syndrome. A review and practical guide. Drugs. 1993; 46: 639-51.
[7]Vercoulen J et al. Randomized, double-blind, placebo-controlled study of fluoxetine in chronic fatigue syndrome. Lancet. 1996; 347: 858-61 and 1770-2.
[8]Behan P et al. A pilot study of sertraline for the treatment of chronic fatigue syndrome. Clin Infect Dis. 1994; 18 (suppl 1): S111.
[9]Information presented by Nancy Klimas at The CFIDS Association of America's 1990 research conference in Charlotte, NC.



著者
Charles Lapp 医師
シャルロット、ハンターホプキンスセンター内科
デューク大学、家庭・地域医療講座助教授



本文中、チャートはこちら。
http://www.cfids.org/archives/2001rr/2001-rr3-article01_link.asp

著者注
このチャートは、
CFS患者に良く処方されるいくつかの抗鬱剤グループから代表的なものを抜き出したもので、全ての抗鬱剤が網羅されているわけではありません。

チャート中の用語
ACTIVATION エネルギーレベルに及ぼす影響
NEUROTRANS 神経伝達物質(D=ドーパミン、NE=ノルエピネフリン、S=セロトニン、a2=アルファ2受容体、H=ヒスタミン受容体)
SEX DYSF 副作用として生じる性障害の度合い
ANTI-CHOL 抗コリン効果
DEEP SLEEP 睡眠深さの効果(3、4段階)
REM LAT REM潜伏期、REM開始までの時間(通常90分)
REM LGTH REM長さ、REM睡眠中の時間
CYP INHIB チトクロームP450酵素(1 A2, 2C, 2D6, 3A4)レベルの阻害
INDIC FDA (DEP=うつ、OCD=強迫障害、PD=パニック障害、SD=社会不安障害、 GAD=一般不安障害
NMH 神経調節性低血圧に及ぼす影響
SD DOSE 開始時服用量
   
+ 増加
0 変化なし
- 減少
ND データなし



翻訳:
Jp-Care



出典
CFIDS Association of America Home Page
PO Box 220398, Charlotte, NC 28222-0398
FAX::704/365-9755



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