慢性疲労症候群患者の治療

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)


Mail Magazine ME/CFS Information, No.82, 84, 88, 2003.8.15, 9.23, 2004.5.10

サイト:http://www.cdc.gov/cfs/cfstreatment.htm
原題:Treatment
著者:Centers for Disease Control and Prevention


CDCのホームページが更新されたため、上記のサイトの原文は、翻訳当時の内容と異なっています。
2007.1.11


慢性疲労症候群患者の治療


慢性疲労症候群(CFS)患者に有効であると考えられている療法には様々なものがあります。しかし、CFCの病因は特定されておらず、病態生理も明らかになっていないため、治療は、症状の軽減を目的としたものとなり、発病前の機能や健康レベルに回復することが目標になります。発症前の健康状態へ急速に回復することは、望ましいことですが、現実的ではありません。そして、過度の努力は症状を悪化させるだけであるということをまだ体験していない、急速な回復を願っている患者は、大きな不満を持つようになり、治療がさらに困難になります。

CFS、またはどの慢性疲労疾患であっても、それらに対する治療法を決める場合には、医師との話し合いが必要であり、それによってのみ治療法の選択が行われなければなりません。医師は、患者と共に、一人一人の患者に対して、最も有効となる治療プログラムを作成します。この治療プログラムは、患者の全健康状態と現在の症状群の評価に基づいて作成され、その後、通常の経過観察や症状群の変化を基に、変更が加えられてゆきます。現在、CFS患者の治療を行っている多くの医師は、以下に示す項目を組み合わせて、治療を行っています。それ以外の特定の治療法についてご質問のある方は、医師、地元医師会、大学病院に問い合わせてください。

治療法の中には、未確認であり、悪影響が考えられるものもあります。治療によって、現在の症状の悪化や新たな症状が引き起こされてはいけません。また、確認や特定の治療が必要な他の疾患が、治療によって隠されてしまうようなことがあってはいけません。最後に、患者に過度の金銭的負担がかかる治療法は好ましくありません。

本章では、CFS患者およびCFSに関心のある方々に向けて、CFS患者の治療に使われている種々の治療法についての基本情報が述べられています。これらは、一般情報を提供することのみを目的としているものです。最近、米国医療研究・品質調査機構(Agency for Healthcare Research and Quality)により、慢性疲労症候群の定義・管理報告書(Evidence Report Defining and Managing Chronic Fatigue Syndrome)が作成され、ウェブサイトからダウンロードすることができるようになっています。



○非薬理療法

○運動療法

適度な運動は、肉体的、精神的健康を保つため、誰にも必要なことです。それは、CFS患者も例外ではありません。しかし、CFS患者に対しては、運動の量と運動をやめる時期に注意を払うことが重要です。そして、最も重要な点は、どのような程度の運動をおこなうにしても、疲労レベルを増加させないようにすることです。

一般的に、医師は、自分のペースを守るように気をつけること、肉体的/精神的に不要なストレスをためないようにすることなどを患者にアドバイスします。毎日一定の運動をおこなうことは、疲労や痛みが増し、逆効果となる場合があります。しかし、できる範囲の運動を習慣づけることで、「プッシュ・クラッシュ(push-crash)」現象を避けることができます。この現象は、体調がよい時期に過度の運動をおこない、運動の後に(過度の運動によると思われる)症状の悪化がみられるというものです。医師は、雇用主や家族に対して本疾患の説明をおこない、患者はできるだけの活動した方がよいのですが、無理をさせないようアドバイスする必要があるでしょう。症状を悪化させない規則正しい適度の運動をおこなうことが重要なのです。運動プログラムや運動の種類に関しては、知識の豊富な医師や理学療法士による管理が必要です。このような運動管理は、重度の患者にとって、特に重要となります。

受動的理学療法の要素を持つ非薬物療法で、よくCFS患者に用いられるものとして、マッサージ療法、鍼療法、カイロプラクティック、頭蓋仙骨療法(cranial-sacral)、あんま、自己催眠療法、タッチ療法(therapeutictouch)などがあります。これらの療法には、気持を良くする効果がありますが、患者自らがおこなう運動、例えば、水中運動療法(aquatic therapy)、軽い運動(個人の能力に合わせたもの)、ストレッチなどと平行しておこなうことで、より大きな効果を得ることができます。患者によっては、さらに体力が必要なヨガや太極拳などの運動も可能でしょう。


○教育

何がCFSであり、何がそうでないかを知ることは、治療における重要な要素です。これは、病気を悪化させると思われる活動や行為を、どのように調整したらいいのか学ぶことでもあります。こういった知識を学ぶ正式な方法は、認知行動療法と呼ばれています。認知行動療法 により、患者は、疾患への対処がより容易になり、新たな症状を誘発することなく、活動量を増すことができるようになることが知られています。また、CFSなどの慢性疾患は、患者の家族にも影響をあたえます。家族が教育を受けることで、良好なコミュニケーションを保つことができるようになり、CFSが家族に与える種々の悪影響を軽減できるでしょう。





○薬理療法

薬物療法は、個々の患者に特有の症状群を軽減するためのものです。CFS患者は、多くの薬剤に対して特に過敏であることが多く、中でも中枢神経系に作用する薬剤で顕著です。したがって、一般的な治療指針としては、極低用量から始め、必要性や耐量にあわせて、徐々にその量を増してゆくことになります。ここで重要なことは、症状の軽減を目的とした薬剤の投与は、当該症状の根本原因がわからない場合にのみおこなわれるべきである、ということです。最も良い例として、非回復性睡眠に対する睡眠増強剤があげられます。薬剤の服用により、患者は良く眠れるようになったと言うでしょう。しかし、睡眠障害は不明のままであり、睡眠障害に対する治療がおこなわれたのではありません。また、すべての薬剤には、有害な副作用があり、新たな症状を引き起こす可能性があることを念頭に置くことも重要です。


○処方箋を必要とする薬剤

●非ステロイド系抗炎症剤

これらの薬は、CFS患者の痛みを軽減するために用いられています。いくつかのものは、処方箋がなくても、一般の薬局で購入することができます。そういった薬剤として、Naproxen(Aleve, Anaprox, Naprosen)、Ibuprofen(Advil, Bayer Select, Motrin, Nuprin)、Piroxicam(Feldene)などがあります。処方箋が必要なものとしては、Tramadol hydrochloride(Ultram)、Celecoxib (Celebrex)、Refecoxib (Vioxx)などが挙げられます。これらの薬剤は、指示通り服用する限り一般に安全ですが、腎臓障害、消化管出血、腹痛、吐き気、嘔吐など様々な副作用を引き起こす場合があります。また、患者によっては、薬物依存を示す場合があります。


●低用量三環系抗うつ剤

三環系の薬は、睡眠の改善や軽い全身疼痛の軽減を目的として処方されます。これらの薬剤には、Doxepin (Adapin, Sinequan)、Amitriptyline(Elavil, Etrafon, Limbitrol, Triavil)、Desipramine (Norpramin)、Nortriptyline (Pamelor)などがあります。多くの場合、うつ病の治療に比べ、はるかに低用量の処方により効果が得られています。また、これらの副作用としては、口渇、眠気、体重増加、心拍数の増加などがあげられます。


●他の抗うつ剤

非抑うつCFS患者に、セロトニン再摂取阻害剤を投与したところ、抑うつ患者に比べて同等以上の治療効果がみられたとの報告がいくつかなされていますが、CFS患者の抑うつ治療に対しては、より新しい抗うつ剤の処方が行われてきています。CFS患者の治療に用いられる抗うつ剤には、セロトニン再摂取阻害剤を含め、Fluoxetine(Prozac)、Sertraline(Zoloft)、Paroxetine(Paxil)、Venlafaxine(Effexor)、Trazodone(Desyrel)、Bupropion(Wellbutrin)などがあります。また、これらの薬剤には、程度の差はありますが、興奮、睡眠障害、疲労増加など、多くの副作用があることが知られています。


●抗不安剤

CFS患者の不安症状に対しては、抗不安剤が処方されています。これらの薬剤としては、Alprazolam (Xanax) 、Lorazepam (Ativan)などがあげられます。また、Clonazepam (Klonopin)は、この種の他の薬剤と異なり、めまい、焼けるような疼痛、亢進した皮膚の疼痛、周期性四肢運動障害などの神経系の障害に対して用いられています。しかし、これらの薬剤を、CFSに対する一般的治療薬として用いるべきではありません。また、代表的な副作用としては、鎮静作用、記憶喪失、服用中止に伴う諸症状(不眠症、腹部及び筋けいれん、嘔吐、発汗、振るえ、癲癇)などが知られています。


●興奮剤

疲労そのものは、それに対する治療をおこなう必要があるものではありません。しかし、疲労によって昏睡や日中の眠気が引き起こされる場合には、治療が必要となります。覚醒作用を持つModofanil (Provigil)の臨床試験は終了していますが、結果はまだ公表されていません。少数の過眠症患者を対照としたプラセボ比較試験では、Modofanil投与により、症状の軽減が報告されています。この薬は、現在のところ、睡眠に関する適切な検査で確認されたナルコプレシーや過剰日中睡眠症と診断された場合にのみ使用されています。


●抗菌剤

感染とCFSの関係は、まだ明らかになっていません。したがって、抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬は、患者の感染が確認された場合を除き、CFSの治療として処方されるべきではありません。抗ウイルス剤アシクロビルを使った対照試験では、CFS患者には効果がみられていません。また、抗菌薬の無差別投与は、耐性菌に対するリスクが増す上に、無数の副作用をもたらします。


●抗アレルギー治療

CFS患者の中には、アレルギーの病歴を持っている方がおり、周期的に、それらの症状が表れる場合があります。非鎮静抗ヒスタミン剤は、こういったアレルギーを持つCFS患者に有効です。例えば、Desloratadine (Clarinex)、Fexofenadine (Allegra)、Ceterizine (Zyrtec)などがあげられます。しかし、抗アレルギー治療は、CFS自体の治療には効果がありません。これらの薬剤による副作用として多くみられるものは、昏睡、疲労感、頭痛などがあげられます。Benadrylなどの鎮静抗ヒスタミン剤は、就寝前に服用すると効果があります。上述の三環系抗うつ剤もまた、大きな抗ヒスタミン効果を持っています。


●抗低血圧/抗頻脈性不整脈治療

CFSに対して、抗低血圧剤や抗頻脈性不整脈剤を処方しても、効果がありません。また、これらの薬剤を一般的に使用することで、悪影響が考えられます。しかし、これらの薬剤は、特定の症状に効果があります。例えば、Fludrocortisone(Florinef)は、傾斜テーブル試験で陽性を示したCFS患者に処方されています。しかし、比較試験からは、CFS患者の一般治療におけるFlorinef単独投与の有効性は見出されていません。またAtenolol (Tenormin)のようなβ遮断剤も、起立性低血圧症患者に処方されています。Midodrine (Proamatine)は、血圧を上昇させる効果があり、特異な傾斜試験により異常が見出された患者には効果がみられています。これらの患者に対しては、塩分と水分の摂取量を増やす必要がありますが、医師の管理下で行うことが重要です。また、これらの副作用としては、血圧の上昇と血液の滞留があげられます。




●試験的薬剤と試験的治療法

●アンプリジェン

アンプリジェンは、抗ウイルス活性を持つことで知られている免疫反応調整物質群であるインターフェロンの産生の促進を目的とした合成核酸生成物です。アンプリジェンは、直接インターフェロンを作り出すものではありませんが、CFS患者の2重盲検プラセボ比較試験において、アンプリジェン投与群は、プラセボ群に比べて認識力/行動力に中度の改善がみられたと報告されています。しかし、これらの予備研究の結果は、さらなる確認が必要です。また、アメリカ食品医療品局(FDA)は、アンプリジェンを市販薬として認可していません。したがって、この薬のCFS患者への投与は、実験的なものとみなすべきです。アンプリジェンの入手は困難であり、高価で、通常、保険は適用されません。また、多くの患者は、アンプリジェンに耐えることができましたが、肝臓への負担などの副作用が報告されており、すべての特性が明らかになっているわけではありません。


●γグロブリン

γグロブリンは、プール・ヒト免疫グロブリンのことで、種々の一般感染因子に対する抗体分子を含んでいます。γグロブリンは、免疫機能が低下している患者や、免疫グロブリン欠如により重篤化が懸念される病原体にさらされた患者に対して、免疫力を与える手段として用いられているものです。γグロブリンは、CFSの治療に有効ではありません。γグロブリンは、まれにアナフィラキシーショックを引き起こす場合がありますが、深刻な副作用はあまりみられません。


●副腎皮質ステロイド

尿中コルチゾール値がわずかに減少しているCFS患者がみられていることから、コルチコステロイドに対する対照試験がおこなわれています。低用量ヒドロコルチゾンを投与した結果、多少の有効性がみられていますが、一ヶ月後には効果がなくなっています。高用量代償療法も多少の効果がみられていますが、副腎機能抑制作用により疾患の複雑化が生じています。


●デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)

デヒドロエピアンドロステロン(DHEA) は、複数の予備研究において症状の改善が報告されています。しかし、これらの予備研究の結果は、その後の研究では追認されていません。したがって、DHEAの投与は、実験的なものとみなすべきでしょう。そして、DHEAレベルとその機能に異常があると確認されている限られた患者にのみ投与すべきです。


●腸洗浄

腸洗浄のCFSの治療に対する有効性は、実証されていません。また、腸洗浄により腸疾患を悪化させる可能性があります。


●クタプレシン

クタプレシンは、豚の肝臓から抽出された未加工のエキスで、入手は困難です。CFS患者の治療に有効であるとする報告はなされていません。また、クタプレシンによってアレルギーが生じる恐れがあります。


●神経外科手術

頭蓋骨底部の異常(キアリ奇形) がCFSの原因であるとする未発表報告が出回っており、これら根拠のない報告の中には、外科手術について触れているものもあります。しかし、現段階では、外科手術を勧めることはできません。


●栄養補助食品と漢方薬

CFS患者の治療に有効であると考えられている栄養補助食品や漢方薬は、さまざまなものがあります。わずかの例外を除いて、対照試験により、CFS治療に対するこれら治療薬の効果の評価はおこなわれているものはありません。一般に考えられていることとは異なり、"天然に存在する原料"であるからといって、安全であるとは限りません。また、栄養補助食品や漢方薬は、深刻な副作用を引き起こす可能性があり、処方薬の効果を妨げたり、相互作用を持つ場合もあります。処方されていない薬剤を服用する場合には、常に医師のアドバイスを受けてください。


●ビタミン、補酵素、ミネラル

CFS患者に効果があると主張されている薬剤には、アデノシン1リン酸、補酵素Q-10、ゲルマニウム、グルタチオン、鉄、硫酸マグネシウム、メラトニン、NADH、セレン、L-トリプトファン、ビタミンB12, C, A, 亜鉛などがあります。初期のCFS研究において、CFS患者では赤血球中のマグネシウムが減少していることが報告されました。しかし、その後におこなわれた2件の研究では、患者群と健常者対照群で差がみられていません。CFSに対するこれらの薬剤の有効性は確認されていません。


●漢方薬

植物は、種々の薬剤の原料となることが知られています。しかし、未精製の植物製剤は、種々の活性な化合物を含み、無用なものや有害と思われる物質も多く含まれています。CFS患者に有効であると主張されている製剤には、Astralagus、ルリヂサの種油、ブロメライン、ヒレハリソウ、エキナシア、ニンニク、銀杏、朝鮮人参、サクラソウ油、ケルセチン、セイヨウオトギリソウ、シイタケエキスなどがあります。サクラソウ油に対してのみ、対照試験が行われていますが、CFS患者に対する有効性がサクラソウ油のみでも得られるのかは確認されていません。いくつかの漢方薬、特にヒレハリソウと高用量朝鮮人参は、有害であることが確認されています。



翻訳:Co-Cure-Japan, K.N.




元に戻る

 

Copyright © 2007 Co-Cure-Japan, all right reserved
ご意見/ご感想はこちらまで。
Please report any problems with this page to the Webmaster.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

inserted by FC2 system