子供のCFSへの対処

David Bell 医師
メディーナ病院小児科主任




 慢性疲労症候群(CFS)とは、未だ原因も分からず、治療法も無い、多くの症状を呈する難病です。その治療は、対症療法が主になっています。この病気は、一般の方々や医療関係者に大変誤解を受けやすい病気で、それは病気に罹っている方とその家族の不公平感やフラストレーションの原因となっています。また、成人のCFSは広く認められていますが、子供達も同様にこの病気に罹る可能性があることは、ほとんど知られていません。ここでは、子供達に生じているCFSについて、その概略を説明いたします。

 CFSは、僅か5歳の子供にも見られています。オーストラリアの研究によると、9歳以下の子供10万人のうち5.5人が、10-19歳までの子供10万人のうち47.9人がCFSに罹っているという結果が得られています[Lloyd et al., 1990]

 小児CFSの初期の治療は、通常の医師の能力や知識で十分に対処できるものですが、小児CFSは、成人のCFSと異なっている場合があり、実際にそれが多くの場合に見られるため、診断が大変困難になります。


症状

 小児CFSには、2種類の発症パターンが見られます。一つは、緩やかに症状が現れ始め、気付かないうちに病状が重くなって行くパターンで、5歳から12歳の子供達によく見られます。もう一つは、突然、症状が現れる場合で青年期の子供によく見られます。主な成人のCFSの症状には、喉の痛み、関節痛、偏頭痛、過敏性腸症候群、運動後の倦怠感、睡眠障害、光過敏、集中力と記憶力の低下があります。子供のCFSにおいては、その発症時に、頭痛や過敏性腸症候群が最も多く現れます。

 CFSは、集中力の低下、短期記憶の喪失、混乱等の認知障害を引き起こし、注意欠陥障害と混同されることもあります。大人に比べて、子供は自分の認知能力を自己診断できるだけの経験をもっていないため、これらの症状に気付くことは困難です。

 多くの場合、小児CFS患者には、数多くの深刻な症状が現れます。そして、それらの症状は次々と移り変わって行きます。例えば、頭痛とのどの痛みを訴えていたその次の日には、リンパ節の痛みと腹痛を訴えるようになることもあります。子供が保健室へ来る度ごとにこれらの症状を書き留めておくことで、病気の全体の様相を捉えることができるようになるでしょう。

 
しかし、子供達は自分の体調の変化をよく分かっていないことが多く、特に、小さい子供達の場合には、実際に生じている症状を説明できないため、さらに病気のパターンが捉えにくくなります。病気の状態と比較となる”健康なときの経験”が少ないために、CFSに罹っている子供達の中には、自分達が病気であるということを信じることができない子供達もいます。





アメリカ疾病予防管理センター、慢性疲労症候群診断基準*


CFSとは、疲労で特徴づけられる症候群のことであり、次の条件を満たすものをいう。

〇これまでに医学的に説明されていない。
〇新たに発症したものである。
6ヶ月以上続いている。
〇継続中の運動により生じたものではない。
〇休息によっても疲労が回復しない。
〇これまでの仕事、学習、社会的、個人的活動レベルを大きく低下させる原因となっている。



これらに加えて、さらに次に示す症状のうち、4つ以上当てはまる場合。

〇記憶力、集中力の低下
〇のどの痛み
〇首と腋の下のリンパ節の張り
〇筋肉痛
〇種類、様相、深刻さがこれまでとは異なる頭痛
〇睡眠をとっても回復しない
〇運動後の倦怠感(24時間以上継続するもの)
〇複数の関節痛(腫れや赤みを伴わないもの)


CFSから除外される症例

〇疲労の原因として医学的に知られている他の病気
〇抑うつを呈する主な病気
〇副作用として疲労を生じさせる薬を服用している
〇アルコール依存症
〇薬物依存症

*Fukudaら、慢性疲労症候群:その定義と研究に対する広範な取組み、
Annals of Internal Medicine, 121:953-959, 1994.






診断

 CFSの診断は、通常の生活ができないほどの疲労、説明のできない疲労を中心とする身体症状のパターンの臨床所見によっています。症状から考えうるその他の疾患を除外するには、各種の検査は有効な手段です。しかし、CFSが疑われる場合には、活動の指標を作ったり、その日一日の子供の活動レベルを日記につけることがそれらよりもはるかに有効な手段となります。

 CFSに罹っている子供は、活動レベルが大きく低下します。しかし、外見からはそうは見えません。例えば、CFSに罹っていても、週末にスポーツ(サッカーなど)に参加でき、そこでは健康そうに見えるでしょう。しかし、注意して見ていると、サッカーに参加した子供は、たいていは次の日、その代償として休んでしまうことに気付くでしょう。

 小児CFSの経過と症状の程度を表す一番重要な指標は、学校の出席日数です。CFSの症状が、収まっているときには、疲労感が強くなれば休むこともかもしれませんが、体育の授業があったとしても一日学校にいられるでしょう。CFSの症状がもう少し重くなると、一日学校にいることができなくなり、スポーツや体育の授業も受けられなくなり、夕方には休息が必要になります。CFSの症状が深刻なときには、学校には行けないので、授業について行くには家庭学習が必要になります。

 週末や夏休みの間の子供の運動レベルと学校がある日の活動レベルとを比較することも重要です。多くの子供達は、夏休みの間は元気が良く、そのため学校恐怖症の疑いを持たれてることがあります。しかし、(子供が週末や夏休みの間元気なのは)その間子供達は、ほとんど何も強制されることが無いからという方がより確からしく思えます。

 活動レベルを記録しておくことは、学校恐怖症やうつ病を除外するのに役立ちます。うつ病の子供達は、完全に疲れきっていたり、弱っていたりはしません。CFSに罹っている子供は、学校でも週末でも同じぐらい動けません。むしろ、学校が無いときの方が活動レベルが低下していることもあります。


処方

 追跡調査を行った結果、8%〜47%の子供達が良くなった、27%〜46%が良くなってきている、12%〜46%が変化無し、6%〜17%が悪化したという報告があります[Bell, 1995]
 小児CFSにおいて、子供の活動レベルを高め、不安を和らげ、学年に見合った勉強を続けて行くためには、全ての問題に対して長期的な治療計画を立てることが重要となります。CFSに罹っているために学校に行けない、または学校での活動が制限されてしまっている子供達は、成長して行くための貴重な時間を失いつつあります。ですから、体調が許す限り、遊びや活動を通じて社会と接点を持つように励ましてあげる必要があります。一日のうち4時間ほどしか起き上がっていられないCFS患者に対しては、社会や学校における活動への取組み方を学んで行くことが重要になります。

 子供の恐怖心についても触れておく必要があります。CFSに罹っている子供達は、エイズや癌に罹っている、もう死んでしまうのではないかと考えるでしょう。そして、子供達の恐怖心は、体が動かせなくなるに従って大きくなって行き、子供達の成長に欠かせない社会との関わりを避けるようになります。これらの恐怖心を和らげることにより、上手くこの病気に対処して行けるようになります。薬理療法もこの病気の症状に対しては有効ですが、完治までの道程が短くなるという補償はありません。また、健康管理に携わっている方々は、CFSに罹っている子供は、薬に対して特異な反応を示すことがあることを知っておかなければいけません。薬を処方するときは、先ず少ない服用量で試してから、徐々に適切な量へと増やして行く必要があります。

 もし、子供が寝付けないなどの睡眠障害を持っていいるるのであれば、少量の坑ヒスタミン剤が有効な場合があります。もし、それがもっと深刻な場合には、3環系坑うつ剤が必要かもしれません[Lapp, 1997]。頭痛に対しては、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの弱い鎮静剤が有効です。

 起立性調節障害が成人のCFSにおいて何らかの役割を担っているという報告が増えてきており、小児CFSに対しても同様の研究が進められています。これらの研究により、起立性調節障害は、CFSを持つ成人に比べ、CFSを持つ子供によく見られることがわかってきました。子供の移り気さや起立性失神は、毎日飲む水の量と摂取する食塩の量を増やすことで改善できる場合があります。青年達に対しては、コルチコイドやβブロッカーが効果的です[Stein, 1998]
 セロトニンの減少を伴う疲労に対しては、フルオキシチン(プロザック)やセルトラリン(ゾロフト)等の選択性セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が有効です。





活動レベルの評価

 下記の項目は、子供達の活動の制限されている程度を健康管理者がより客観的に評価するためのものです。以下の項目に対して、子供が一日のうちどれだけの時間を費やしているのか両親に記入してもらってください(合計が24時間になるようにしてください)。睡眠時間は、一回の睡眠時間ではなく、24時間のうち何時間の睡眠をとったか、その合計を記入してください。


   活動                              時間

睡眠                                      

休息(睡眠以外)                                

座ったまま、または寝たままの軽い運動(テレビを見る、読書など)         

室内での中程度の活動(勉強(家庭教師を含む)、食事など)             

屋外での中程度の活動(学校、散歩、買い物など)                       

熱心な活動(エクササイズ、スポーツなど)                    

                             合計:        

健康な子供の場合、通常、活動時間は約12時間、活動していない時間は約12時間になります。小児CFS患者の場合、一般的に活動時間は8時間以下となり、また熱心な活動が見られなくなります。症状が重い場合には、活動時間は4時間以下となります。





ケースマネージメント

 小児CFSは、学校恐怖症、不安障害、うつ病としばしば間違われてしまいます。そして、その後の適切な診断への努力を怠れば、子供の孤立感、不安定感、家庭内でのストレスの原因となります。子供が保健室へ来るたびに、学校への出席状況や活動レベルを聞き、そして症状のパターンを見つけることでCFSの診断を補助することができます。

 確かな診断を受けることで、それは、症状の緩和や徐々にでも活動しようという勇気を与えてくれます。これらのことは、この病気に対処して行くために最も重要なことなのです[Lapp, 1997]。また、多くのCFSの症状は、同様に多くの疾患の発症時に見られるものであるため、定期的に診断し再確認して行くことも重要です。

 その他の慢性病の場合と同様に、医師には、患者を励まし、医学的、精神的問題に対処し、情報を提供し、患者、家族、学校関係者を教育する役割が求められます。どんなときも医師が小児CFSの支援をして行くことで、色々な治療手法を素直に受け入れてもらえるようになるでしょう。



参考文献

D.Bell, Chronic fatigue syndrome in children and adolescents: a review. Focus & Opinion: Pediatrics, 1: 412-420, 1995.

C.Lapp, Management of chronic fatigue in children: a practicing clinician's approach. Journal of CFS, 3: 59-76, 1997.

A.Lloyd et al., Prevalence of chronic fatigue syndrome in an Australian population. Medical Journal of Australia, 153: 522-528, 1990.


M.Stein, Twelve-year-old-girl with chronic fatigue syndrome; school absence, and fluctuating symptoms. Journal of Developmental and Behavioral Pediatrics, 19: 196-201, 1998.




原文:
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翻訳:Jp-Care


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